大学時代の友人は、アパートにWi-Fiがなかった。彼の住んでいたアパートから大学までは、歩いて数分の距離だった。夜になると、彼はたびたびノートパソコンを小脇に抱えて外に出た。そして大学の塀沿いに突っ立ち、そこで電波を拾いながら、アダルトサイトの無料サンプル動画をダウンロードしていた。

 

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 墓参りに行くたびに、神社でお詣りするときみたいに、心の中でお願いごとをする習慣がある。

 子どもの頃、手を合わせて目を閉じているあいだ、いったい何を考えればいいのか分からなかった。母にたずねると、お願いごとでもすればいいという返事があった。その名残が、妙な話だが、三十路も半ばに達したいまにまでおよんでいる。

 墓参りの作法としては、実際、完全に間違っている。しかしだからといって、顔も知らない水子の兄にいまさらどう語りかければいいのか、てんで見当がつかないし、何も語りかけず手を合わせるだけというのも、すこぶる手持ち無沙汰だ。

 だから、いまでも年に一回か二回、「行き詰まっている原稿の難所が突破できますように」とか、「貯金が尽きるまでにやばいバイトが見つかりますように」とか、「今度乗る飛行機が墜落しませんように」とか、けっこう具体的な自分の願いをしっかりと言葉にする。そういう機会が与えられている。