学生の頃、税金対策のためだけに営まれている中古ビデオゲーム店で、アルバイトをしていた。

 店内の一画で遊戯王カードをプレイするためにやってくる常連客の中には、小中学生に混じって、男子大学生も何人かいた。そのうちのひとりは、やたらと先輩風を吹かせるために、子どもたちから陰でかなり疎ましがられていた。じぶんの名前を冠した「ギルド」を組織し、店に出入りしていた小学生らをなかば無理やりその構成員として任命するのだ。彼はだれと顔をあわせても一言目には「いそがしい、いそがしい」と口にしていたが、それでいてほとんど毎日のように店に姿をみせた。

 いちどその彼が、他店で購入したばかりだという新作人気ゲームソフトをもって、店にあらわれたことがある。彼は、たまにはお店に貢献しますよ、といって、その新作ソフトをレジに差し出した。どういうことかと困惑していると、買い取りしてください、そして買い取ったものをこの店の目玉商品として売りに出してください、と続けた。

 

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 中古ビデオゲーム店の店長は、奈美悦子に似ている五十代の女性で、過去に偽ブランド品を売買した罪で、逮捕歴があった。小ぶりのショウケースの中には、押収されず手元に残ったものだろう、どう見ても偽物でしかないルイ・ヴィトンのコインケースが二つ三つ、裸のまま置かれていた。同僚のアルバイトが一度、「これ、置いていていいんですか」とたずねると、店長は「これは限りなく本物に近い偽物だからいいんです」と言った。

 

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 店長の恋人は、彼女よりひとまわり以上年下の、どこからどう見ても水商売あがりの男だった。カウンターの向こうにひかえて店番をしている店長が、そのとなりに座らせた恋人の男とディープキスをしているところを、同僚のアルバイトが店の前を通りがかったときに、たまたま、入り口のガラス扉越しに目撃した。彼は、何も見なかったふりをして、そのまま店の前を通りすぎた。

 ほどなくして店長から電話があった。いますぐ店に来るようにという命令に応じる格好で、しかたなく店にもどると、店長は丸盆いっぱいの特上寿司を差し出し、あまっているから好きなだけ持っていきなさいと言った。

 

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 いちど、こちらが店番している時間帯に、店長とその恋人がふたりそろって店に姿をあらわした。店長は、恋人の男が店の外にひととき姿を消したその隙に、こちらのそばに駆けよると、「三宅さん、『ご結婚おめでとうございます』って彼に言ってください」と耳打ちした。ふたりが結婚したことを知ったのはそのときがはじめてだったので(それどころか恋人の男を間近で見るのもそのときがはじめてだった)、これはまったく寝耳に水だったが、とにかく、男がふたたび店に姿をみせたところで、指示されたとおり、「ご結婚おめでとうございます」といって軽くあたまをさげた。男は低い声でもごもごいうだけで、すぐにまた店の外に出ていった。