京都に住んでいた頃、バイト先のラブホテルの同僚だった仏教系の大学に通う学生から、卒業論文の代筆を頼まれた。いくら出せるかとたずねると、十万円までなら問題ないという(彼はその少し前、交通事故に遭って、慰謝料をたんまりふんだくっていた)。当時の月収はだいたい七万円か八万円だったので、引き受けることにした。

 ゼミで薦められたという参考文献を三冊か四冊、まずは持ってきてもらった。それにざっと目を通してから、彼のいうとおり、ブッダの生涯について20000字前後でまとめる計画だった。代筆がバレるとまずいので、過去に書いたレポートも見せてもらったのだが、ひどいものだった。論文なのに、書き出しが「自分は~だと思う」だったし、文章そのものも壊滅的。主部と述部は噛み合わないし、読点はでたらめだし、誤字も脱字も山ほどある。てにをはの怪しい箇所も少なくなかった。

 論文そのものは一日で書きあげたが、そのあとに、文章をまずく作りなおす行程が控えていた。これにはかなりの工夫を凝らした。できあがったときには、ある種の文学的達成感すらおぼえたものだ。仕上がったものを手渡し、報酬を受け取った。その金で、オーストラリアから帰国したばかりの友人に回転寿司をおごった。

 後日、別の同僚から、依頼主の学生がバイトの休憩時間中、「三宅さん、マジで文章の間違いが多いんすよね。十万も払ったのに」と愚痴を垂れていたと聞かされた。