友人から聞いた話。
 深夜の牛丼屋で、白髪の男性と金髪のギャル男がカウンターにならんで腰かけていた。妙な組み合わせだなと思ってなんとなく会話に耳をすませていたところ、ギャル男が不意に、「それってつまり、神の見えざる手ということですか!」と抗議するような口調で叫んだ。


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 幼馴染のクレーン運転手から数年ぶりに電話があった。年に一度会うか会わないかの関係で、結婚の報告すらLINEだったというのに、突然の着信だった。ちょうど新型コロナウイルスが日本でも流行しはじめていた時期だったので、嫌な予感があたまをよぎりもしたが、幼馴染は開口一番、「あのさぁ、ちょっと聞きたいことがあるんやけどさぁ、コミックスと書籍の違いってなに?」と言った。


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 腕や足に蚊が着地する気配を感じるたびに、実際に目で確認するよりもはやく手のひらでそこをぴしゃりと打つ癖がある。まんまとやっつけるのに成功することもあれば、うぶ毛がこすれてくすぐったいのを勘違いしていただけであるのに気づくこともある。
 手をふりおろしはじめるまぎわに、こちらの反応を察して離陸した蚊の姿を視界の端に認めることもときにはある。それでもふりおろす手を止めることはない。むずがゆい肌をそのままぴしゃりとやってしまう。まんまと蚊に逃げられてしまったじぶんを罰する手なのだと思う。