鴨川でポストカードを路上販売していると、時々、四十代か五十代くらいの、いかにもヒッピー風な男が姿を見せることがあった。生え際の後退した長髪に、黒のサングラス、黒のタンクトップ、黒のスキニーパンツ、黒のブーツ。ブーツの踵には鈴が結えられており、それをシャンシャンと踏み鳴らしながら、パンツの後ろポケットに突き刺してあるドラムスティックを取り出し、路上駐輪してある自転車のサドルを叩きまくる。それを観光客たちが好奇のまなざしでながめる。

 何度か話す機会があったのだが、イギリスでジャズと英語とタロットカードを学んだという、本当かどうかよくわからないプロフィールの持ち主だった。路上で物を売ったりライブをしたりしている面子からは、率直にいって、かなり煙たがれていた。あのおっさん来ると客逃げるからなァ、と。

 一度、煙草をねだられた。持っていないと応じると、それじゃあマジックを一本貸してくれという。男は近くのコンビニでもらってきた段ボールのおもてに、こちらが貸したマジックで「タロット占い1000円」と書きつけると、別の一画で自作のアクセサリーを路上販売している女性からキャンドルを一本借りて、その段ボールの上に立てた。すでにあたりは薄暗かった。タロットカードを立てたキャンドルの脇に置く。

 異様な身なりが功を奏し、すぐさま若い女性二人組がやってきた。占いは終えた男性は客から裸の千円札を一枚受け取ると、すぐにキャンドルの火を消し、段ボールを折り畳み、先のコンビニで煙草を買った。

 

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 幼なじみの父は植物を育てるのが趣味だった。天敵はオオスカシバ。害虫だ。卵を駆除すれば1円、幼虫を駆除すれば10円、さなぎを駆除すれば50円、成虫を駆除すれば100円、それぞれ小遣いをやると言われていた幼なじみは、下校の途中、いたるところでオオスカシバを捕獲し、それを自宅の菜園で見つけたものと偽って小遣いを稼いでいた。

 ほとんど毎日、登下校を共にしていたこともあり、こちらもオオスカシバを見つけるのが自然と得意になった。ある日、道端でオオスカシバの幼虫を見つけたので、おい、ここにおるぞ、と教えた。幼なじみは葉っぱの上にいるその幼虫をじっくり検分すると、このサイズやったらもうすぐさなぎになる、もうちょい待つわ、と言った。